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神殿の丘では今、いったい何が起こっているのか―2017.7.26

一連の騒動が起こっている神殿の丘

en.wikipedia.org」より

日本でもここ2週間ほど、聖地エルサレムでのイスラエルとパレスチナの衝突は報道されていますが、断片的で前後関係が分かりにくい記事が大半なように感じます。なので今回はなぜ神殿の丘がこれだけ世界を騒がしているのかという、バラガン(混乱・混沌)について現地の報道などから説明したいと思います。


■ まず、神殿の丘とは誰のものなのか

まずは現在、3大一神教の聖地である神殿の丘が誰によって管理されているかについてです。 現在エルサレムは67年の六日戦争以来、イスラエル政府の管理下にあります。しかしイエスが埋葬され復活したと信じられている聖墳墓教会や神殿の丘などの聖地については、18世紀にオスマントルコの皇帝が取り決めた「ステータス・クオ」という勅令を慣例として踏襲しています。ステータス・クオ(Status quo)とはラテン語で「現状維持」の意、エルサレム周辺の各聖地の宗教的な主権や権利について18世紀の状態を維持しようという取り決めの事を指します。例えば聖墳墓教会はカトリック、ギリシャ正教、アルメニア正教のキリスト教の3つの宗派によって当時管理されていました。現在も聖墳墓教会ではステータス・クオに則り上記3宗派による独占的な管理が継続されており、教会内の管轄・所有区域も350年間変わっていません。
同じように神殿の丘でもステータス・クオが適用されており、67年以降政治的にはイスラエルの管理下なのですが「ワクフ」と呼ばれる、パレスチナ傘下のイスラム教宗教機関による宗教的自治が認められています。ですから、神殿の丘へ入るための各門の警備や丘の中で暴動が起こった時などの治安維持はイスラエル警察の役割ですが、基本的な神殿の丘内の管理はワクフの手に任されています。神殿の丘自体はユダヤ・キリスト教徒にとっても神聖な場所ですが、丘の内部での祈祷や礼拝等の宗教的活動はもちろんのこと、聖書や十字架など宗教的所持品の持ち込みもワクフによって禁止されています。またイスラエル警察によって各門の警備が一応されてはいるのですが、保安検査は非ムスリムの観光客・ユダヤ人が入る門の1つだけでイスラム教徒が神殿の丘に入る際の11の門では、警察官が立ってはいるもののチェック無しに自由に出入りができるようになっています。

実質的にはイスラム教徒はセキュリティー・チェックを通らずに神殿の丘に入れるため、しばしばパレスチナ人によって武器の持ち込みが行われ、アル=アクサ・モスクの中から大量の武器が押収される事案が散発的に起こっており、そのたびにパレスチナ人とイスラエルの警察隊との間で緊張状態や衝突が見られていました。


■ 7月14日の銃撃事件

今年も3月からテロやテロ未遂の事案がエルサレムで月に1・2回のペースで起こり、6月には境界警察官の女性が刺殺される事件が起こるなど緊張が高まっていました。そして7月14日の早朝に3人のアラブ人が神殿の丘に入る際に、背後から警察官に向かって銃を乱射しその後岩のドームの境内で銃撃戦に発展しました。この今年最大の軍事衝突により、イスラエル側の警官2人とパレスチナ側のテロリスト3人の計5人の死者が出ました。
日本ではあまり報道されていないのですが特筆すべきなのは、この3人のテロリストが西岸地区やガザのパレスチナ人ではなくアラブ系イスラエル人であるという事と、イスラエル側の犠牲者2人がユダヤ系イスラエル人ではなく、ドゥルーズ人と呼ばれるテロリストと同じアラブ系イスラエル市民だということです。一見同じアラブ系イスラエル人同士が殺し合った事になるのですが、イスラエルに13万人いるドゥルーズ人はイスラム教の一派でアラビア語を話すものの、イスラエル軍の兵役に就くなど親イスラエルなスタンスを取っています。そのためパレスチナ人からは「シオニスト/裏切者」とユダヤ人と同じぐらい憎悪されているのです。

神殿の丘内を警備するイスラエル警察と14日の銃撃事件で犠牲になったドゥルーズ人警察官

en.wikipedia.org」より

とにかく今回ニュースになっている神殿の丘での騒動の直接的な発端は、14日の乱射事件にあると理解してよいと思います。


■ テロを受けてイスラエルは金属探知機を設置

神殿の丘で乱射によるテロがあった14日は金曜日、イスラム教では合同礼拝が行われる聖なる日でした(欧米での日曜に相当)。テロを受けイスラエル側は緊急事態を宣言し、今年に入って初めて神殿の丘を封鎖したためアル=アクサ・モスクでの金曜の大礼拝は中止になりました。
テロから2日が経った16日、イスラエル政府によって神殿の丘の門が再び開かれ入場が許可されたのですが、イスラエル政府は金属探知機を設置しイスラム教徒にも保安検査を行うよう警察に命じました。この政府の決定に対しては軍や公安庁(シャバック)から、「パレスチナ側からの反発から更なる衝突が起こる危険がある」との慎重・反対論が出ていたのですが、右派のネタニヤフ政権は探知機設置と神殿の丘内に入るムスリム全員に対する保安検査を即座に強行しました。

金属探知機設置後、抗議の意味を込め神殿の丘の門前で祈りを捧げるパレスチナ人たち

www.20il.co.i」より


■ 保安検査への反発-そして広がる衝突とテロ

イスラム教徒にもセキュリティー・チェックを行い始めた事にワクフは猛反発、「金属探知機設置はステータス・クオ(現状維持)に反するものである」としアラブ人に対し神殿の丘に入る事を拒否し、毎日5回の祈祷(サラート)をイスラエルへの抗議を示すため神殿の丘の門の前で行うよう呼び掛けました。また西岸地区でもファタハが、18日をイスラエルに対して抗議行動を起こすための「憤怒の日」に制定すると発表、安全確保のためセキュリティー・チェックを敢行したことによってさらなる軍事衝突が発生し始めました。
テロが起こった1週間後の次の金曜日(21日)もワクフの立ち入り禁止令により、金曜日の礼拝時間にもかかわらず神殿の丘内にイスラム教徒がほとんどいないという、かつてない状態が続きました。そして閑散とし静かな神殿の丘とは対照的に、旧市街のムスリム地区や東エルサレム、西岸地区ではパレスチナ人とイスラエル側との軍事衝突が激化、この金曜日には各礼拝後の暴動からパレスチナ人側に計3人の死者が出ました。
そして21日夜今度はユダヤ人にとっての聖なる日、安息日(シャバット)が始まったのですが、ユダヤ人入植地のハラミシュに19歳のパレスチナ人が無断で侵入、安息日のディナー中だったユダヤ人一家を襲撃し3人が刺殺され2人が負傷しました。このパレスチナ人テロリストは現行犯として逮捕されたのですが、取り調べでは先週神殿の丘で殺されたシャヒード(聖戦による殉教者)の仇討ちであると、宗教的理由からの犯行であると主張しています。このユダヤ人一家の刺殺に関してパレスチナ側から直接の声明などは出ていないものの、ハマスの指導者ハニヤ氏はテロリストの家に電話をし「君たちの息子は民族に誇りをもたらした」との祝辞・祝福の言葉を述べ、ガザの街では祝賀ムードが広がっていました。


21日の入植地で起きた刺殺事件の現場(左)と歓喜に沸くガザ地区(右)

twitter.com」より

そしてイスラエルに対するテロ・襲撃事案はイスラエルやパレスチナだけではなく、隣国ヨルダンにも飛び火しました。23日の夜パレスチナ系ヨルダン人で17歳の少年が、アンマンのイスラエル大使館近くでイスラエルの防衛駐在官に電気ドリルで襲い掛かり軽傷を負わせるテロが発生しました。駐在官は応戦して銃を発砲、少年と近くにいて巻き込まれた住民の計2名が死亡しました。その後、駐在官や他の外交官も緊急にイスラエル大使館へ避難したのですが、大使館前にはヨルダン警察と軍、そして大規模なデモが押し寄せるなど、一触即発の事態に陥りました。その後、公安庁(シャバック)の長官がヨルダンに乗り込んでヨルダンと実務者間の交渉を進め、ネタニヤフ首相もヨルダン国王と電話会談をし両国間で「神殿の丘から金属探知機を撤去することを条件に、発砲した防衛駐在官を含むイスラエル大使館スタッフ全員の帰国を認める」という基本合意がなされました。
そして24日の夜にネタニヤフ首相は緊急の内閣会議を開き、ヨルダン政府の要求通り神殿の丘からの金属探知機撤去を正式決定しその旨をヨルダン政府に伝えたことで、ヨルダン・イスラエル二国間の関係悪化という最悪のシナリオは回避されました。


■ 金属探知機撤去後も続くパレスチナ側のボイコット―

24日深夜、内閣の決定後撤去される金属探知機

haaretz.co.il」より

ヨルダン国王の提示した条件を飲んだネタニヤフ政権は金属探知機ではなく、武器検知や顔認証に優れた最先端のスマート・カメラを設置する案を現在進めています。
ヨルダン側はその案について表立っては反対していませんが、パレスチナ側では金属探知機撤去だけではなく、銃撃事案後に緊急設置されたものなど全ての防犯カメラが撤去されるまで神殿の丘への入場を拒否する姿勢が取られています。その結果、撤去後の25日以降もワクフの主導により千人以上のイスラム教徒が神殿の丘の門前や、旧市街の門付近で祈りを捧げる状態が続いており、西岸地区のアッバス議長も「(全てにおいて)神殿の丘が14日以前の状況に戻らない間はイスラエルとの交渉を全面的に凍結する」との声明を発表しています。またパレスチナ自治政府では、ヨルダン政府がパレスチナ側に知らせないままイスラエルと神殿の丘に関する外交交渉を「勝手に」行ったとして、ヨルダンに対する不信感も強めています。 パレスチナ側からの主張に対してイスラエル側は「ステータス・クオは神殿の丘におけるイスラム教徒の安全な宗教活動を保障するものである。そしてカメラ設置は神殿の丘への出入りや宗教活動を制限するものではないため、現状維持の違反にはならない」との態度を崩していないため、問題の長期化が予想されています。

軍や保安庁、そしてヨルダンからの圧力もあり金属探知機撤去は行ったネタニヤフ首相。しかし現状のカメラ設置案を進める限り、パレスチナ側からの反発とエルサレム旧市街や入植地・西岸地区内での緊張状態は続くことは必至です。ここ10日ほど、イスラエルでは評論家の多くや軍・安全保障の関係者から、神殿の丘の騒動からこのままでは第3次インティファーダが起こるのではないかと危惧する声が上がっています。


「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。



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