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バラガン・コラム-イスラエルあれこれ (➡他の記事一覧はこちら)
ペサハの式次第『ハガダー』2017.4.18
今イスラエルではユダヤ人にとって最も大切な祭りであるペサハが1週間祝われています。 エジプトの地で奴隷だったイスラエル民族が、神によって遣わされたモーセに導かれエジプトを 脱出したことを祝う祭りで、ユダヤ人の間では奴隷から自由の身になった「自由・解放の祭り」 とも呼ばれています。
そんなペサハの祭りで最も重要なのが「セデル」と呼ばれる初日にある夕食です。
あの有名な最後の晩餐も元々はこのセデルの食事だったのではと言われています。
さてこのセデルは「ハガダー」と呼ばれる特別な式次第によって進められていきます。
このハガダーの内容は中世からほぼ変わっておらず、現在世界中のユダヤ人がこのハガダーに沿って
ほぼ同じ典礼文・祈祷を読み上げながらセデルの食卓を囲んでいるのです。
今回はペサハの期間中に街でいくつか面白いハガダーを見つけたのでご紹介したいと思います。

こちらはフランスにおけるユダヤ教のハガダー、ハガダー・デ・フランシア。
フランスに住むユダヤ人コミュニティーの歴史を学びながらセデルを
行いましょう、というものでフランス系ユダヤ人のために典礼文のフランス語訳がヘブライ語の下についています。
ハガダー内左側のページにある写真は約100年ほど前フランスのユダヤ人たちに使われていたセデル用の蓋付きプレートです。
このフランスのハガダーの他にも、メキシコやイタリア、アレクサンドリア(エジプト)のハガダーなどが
店頭には並んでいました。世界中の離散の地からイスラエルへ帰還したユダヤ人たちが、自らの家族のルーツや歴史を
学びながらペサハを祝うのですね。

上記のものはディアスポラ(ユダヤ民族離散の地)にスポットを当てたハガダーでしたが、
こちらはイスラエルと現代シオニズムを題材にしたハガダー。
その名も「自由のハガダー」で、中心のダビデの星には「奴隷の身から自由の身へ・離散から独立へ」と
書かれておりイスラエル建国60年を記念して特別に発売されたものです。
ハガダーの中にはディアスポラの地でシオニズムが起こり、イスラエル建国時のアリヤー(イスラエルへの帰還移住)や
独立戦争、そしてその後帰還者たちが新しい『故郷』へ適応していく様子が写真やポスター・芸術作品などで紹介されています。
フランスやイタリアのハガダーが「各々のユダヤ人としてのルーツを知るハガダー」であれば、これは「イスラエル人としての
ルーツを学ぶハガダー」と言えるかも知れません。
やはり最後はベングリオンの独立宣言文と写真で締められており、まさにイスラエル人にシオニズムを教育するハガダーと
いった感じ。写真にあるのはハガナーやハ・ショメルと呼ばれるイスラエル建国前にあったユダヤ人による軍事組織と、
それらを母体としてイスラエル国防軍ができた当時の兵士たちの写真になっています。
今まで紹介したハガダーもかなりマニアックなものですが、さらにマニア向けなハガダーを見つけました。それがこちらの写真。

見たところ何が特別なのか分かりませんが、16世紀初めドイツのユダヤ人家庭で使われていたハガダーを復元したもの。
左側がスキャン技術によって復元されたハガダーで、右の冊子は通常のフォントの式次第に説明・注釈がついたものです。
当時はまだハガダーに入っていなかった讃美歌がいくつかあるものの、約8割は現在の一般的なハガダーと同じで現在のセデルにも使えるようになっています。
その復元されたハガダーの中身がこちら。

このページには「ハレル(讃美)」と呼ばれるユダヤ教で最も古い讃美歌の1つ、詩編113~118章が書かれています。 ちなみにイエスが最後の晩餐後に「さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った(マタイ26:30/マルコ14:26)」と ありますが、この「さんび」はここに書かれているハレルだと考えられています。 ハレルの周りにはハレルの聖句をイメージした絵や当時のセデルの様子(左)、そしてページの下には紅海を割って渡ろうと するイスラエル民族(右側)とそれを阻止しようとするファラオ率いるエジプト軍(左側)が描かれています。
ページの下の方が破れていたり他のページでは破れた箇所が糸で縫われていたり、挿絵の中に手書きのメモや落書きが残されていたり―500年前のペサハを 感じる事ができるハガダーになっています。
しかしペサハの問題は真面目な大人向けのハガダーばかりだと長いセデルの夕食中、子供たちは退屈してしまうということ。 実はセデルの持つ最も大切な意義とは出エジプトの苦難を子供たち(次世代)に伝えることなのです。 そんな子供たちのためには子供用の絵本になっているハガダーがたくさん売られているのですが 、そんななか子供用の面白いハガダーを発見しました。

このハガダーは1300年前後の現存する最古の挿絵付きハガダーの絵を使って作られた、
しかけ絵本のハガダーです。中には出エジプト記やセデルに関するしかけがいたるところに隠されており、
子供たちはしかけを見つけて遊びながらセデルに参加できるようになっています。
写真はイスラエル民族が紅海を進む場面のもので、矢印を引っ張ると先頭を行くモーセが杖を振り下ろし海が割れるという仕掛けになっています。
14世紀のハガダーに少し触れながら楽しんでセデルを過ごせるよう、イスラエル博物館が考古学者・教育者と共同で
家族向けに作成したもののようです。
さて、今回はエルサレムの街で見つけた面白いハガダーを紹介しました。 ペサハも今日(17日)の日没で終わり、火曜日は祭りの次の日で学校は休みですが、水曜日からは国中が平日に戻ります。 ペサハの終わりとともにイスラエルは短い春に、そして今回紹介したハガダーも各家庭の物置で来年のペサハまで1年間の 長い冬眠へと入ることになるのです。
「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。