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和平がさらに遠のくパレスチナの『歴史教科書問題』 2019.10.23

今年度よりパレスチナの子供たちが和平への試みを学ぶことはなくなる・・・

Ynet公式ツイッター より)

パレスチナ自治政府は現在、3年間の教育改革を行っています。最終年にあたる今年、自治政府は歴史の教科書からイスラエルとの和平交渉に関する記述をほぼ全て削除する事を決定しました。例えば今までの教科書では、1993年にPLOアラファト議長とイスラエルのイツハク・ラビン首相の間で結ばれたオスロ合意が詳しく言及されていました。締結前にアラファト議長がラビン首相に送った手紙の内容なども引用されていました。しかし改訂された新教科書では、イスラエル・パレスチナ間の相互承認というオスロ合意の主題がほぼ全て削除され、アラファト議長がオスロ合意に関して「全ての暴力行為を含まない、平和的共存という時代の始まり」とラビン首相に書き送った箇所も消えています。


そしてオスロ合意以外の和平への歩み、97年のヘブロン合意、翌年のワイリバー合意、2000年のキャンプデービッド会談、2003年に発表されたブッシュ大統領のロードマップ、そしてオルメルト前首相とアッバス議長が対話した2007年のアナポリス中東和平国際会議などに関しては、今年からの教科書には全く言及されていません。その結果もともと教科書にあった、「チャプター1:平和のためのプロジェクト・イニシアチブ」、そして「チャプター2:和平合意」という2章がそっくり歴史教科書から姿を消す事となりました。

改訂に際し、消された2章

Ynet公式ツイッター より)

歴史修正は和平の歴史だけではありません。過去の教科書では「イスラエル」という単語が使用されていたのですが、新教科書では「(イスラエル)」と全て括弧付きになりました。このイスラエルという単語を常に括弧付きで表示するのは、イスラエルを承認しないハマスやイスラーム聖戦などがよく使う手法で、自治政府が彼らの「対イスラエル観」に倣った形に。そして、イスラエルの地(特にエルサレム)におけるユダヤ人の歴史なども完全に削除され、現在のエルサレム旧市街を学ぶ箇所では地図から「ユダヤ人地区」の名前が無くなり、旧市街がアルメニア・キリスト教・ムスリムという3つの地区のみによって構成されている事になっています。

イスラエルの教育評論家たちからは、「教科書は若者の意識を形成する重要なツールであり、パレスチナ自治政府はそれを熟知している。新しい教科書はイスラエルとの平和の可能性を排除し、憎悪と暴力をこれまで以上に推し進めてしまうだろう」と危惧する声が上がっています。ネタニヤフ首相はコメントを発していませんが、青と白のベニー・ガンツ党首は自身のツイッターで、「一番の被害者はパレスチナの若者たちだ。より良い未来へと至る可能性は平和・寛容・共存の教育であり、扇動や自爆テロへの賞賛ではない。過去を消すことは、未来への希望を消す事なのだ」と自治政府の決定を非難しました。

パレスチナで和平を学ばない世代が育っていくのか

The Israel Democracy Institute より)

それに対しPLOの元閣僚アシュラフ・アル・アジラミ氏はイスラエル紙イェディオット・アハロノットの取材に対し、「現状に照らし合わせて、歴史を修正しているだけだ。過去には和平合意への対話があったが、結局オスロ合意は平和をもたらすことは無かった。イスラエルが破棄するような行動をしたため、和平合意は無に等しい状況となったのだ」と和平の歴史を削除している事を否定し、あくまで修正に過ぎないと述べました。またアラブ統一会派アイマン・オデ代表は、「まるでイスラエルでは毎日オスロ合意について教育しているような口振り。イスラエルこそ毎日、実際にパレスチナ人たちを彼らの地から消しているではないか」と、パレスチナ側の決定を擁護するようなツイートをしています。

現在イスラエル・パレスチナともに30歳以下は「オスロを知らない世代」、高まる和平への機運を実際に感じた事がない世代になります。そんなただでさえ和平に対してリアリティーを感じない若者が、今回の教科書改訂により実際にあった和平への試みを(知識としてすら)知らないまま今後育って行く訳です。今後パレスチナでは「和平交渉を知らない世代」が形成されていき、パレスチナの未来を担っていくのかも知れません。

ガンツ党首の言う通り、教科書からの和平削除は希望を消す事にもなってしまうのでしょうか。そうならない事を願いたいと思います。


「バラガン」とはごちゃごちゃや散らかったという意味のイスラエルで最もポピュラーなスラングです。ここでは現地在住7年のシオンとの架け橋スタッフが、様々な分野での最新イスラエル・トピックをお届けします。



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